話はずいぶんさかのぼり、2007年の話ですが、NECはそれまで上場していた米国NASDAQから上場廃止しました。
上場廃止の理由は、2006年3月期決算の際、監査法人の承認が得られず、期限内に米国証券取引委員会(SEC)に提出できなかったことです。
NECも粘って監査法人の求めるレベルの報告書を作成しようとしたが結局はギブアップしました。
当時、私は「米国で上場廃止になったら、NECはえらいことになるのでは」と思っていたが、実際には対外的にあまり大した影響はありませんでした。
NECと言う会社は、日本でこそ(PC-98シリーズのおかげで)知られた大企業ですが、グローバルで見るとネットワーク機器以外ではほとんど知られていません。
NECは、国内での売り上げ鈍化を打開するため、グローバル展開の一環として、米国NASDAQでの上場による知名度、信用の向上と資金調達を行ったと思われますが、グローバルの会計基準は、日本の基準と異なっており、手に負えなかったということです。
監査法人が承認しないというのは、ちゃんと厳正な監査が行われなければならない状況にあるということです。
そのような状況になったのは、米国での巨額不正経理が多発したためで、特に有名なのはエネルギー企業のエンロンの事件です。
その点からすると、この監査法人はやることをちゃんとやったと言えます。
上場廃止しなければならなかった理由
NECは、2007年9月21日のプレスリリースで監査を完了することができないとギブアップ宣言しています。
6か月の期間があっても対応できなかったということになります。
会計上の問題となったのは、NECの日本での販売方式であるコンピュータシステムやハードなどの製品に保守サービスをセットして販売する「複合契約」でした。
会計処理上、製品と保守サービスの収益を分けて計上する必要があります。米国の監査法人は保守サービス部分の収益について「客観的に価値を立証すべき」と指摘し、保守などに使う部品の標準的な取引価格など詳細な説明を求めました。
さて、通常製品と保守サービスを販売する場合、それぞれ別々の価格が設定されます。
典型的には、製品は売り切り、保守サービスは1年単位のサブスクリプションです。
私の知っているNECの製品や米国のあるソフトウェア会社の製品はこのタイプです。
個人的な見解ですが、日本の顧客(個人ではなく企業です)は、IT製品の保守サービスは無償だといつの頃からか思い続けていたのだと思います。
そのため、NECがシステムを販売する場合も、「保守込みで」という要求を顧客が出していたのではないかと思います。
NECは、特に企業・官公庁、金融とNTT関係の顧客をキープしていますので、ビジネスとしては最低限には安定して売り上げを確保していますが、逆に考えるとそれらの多くのお得意様が「複合契約」である場合、その契約の数たるやとんでもない数字になるでしょう。
そのため、6ヶ月掛けても保守サービスの収益を明確にすることができなかったのでしょう。