年金資産の積立超過と取扱い

年金資産の積立超過と取扱い

1.毎期拠出する掛金額が退職給付費用を継続的に超過している
2.遅延処理項目が発生した
・数理差異上の原因として年金資産が増加、または退職給付債務が減少した
・過去勤務債務を原因とする退職給付債務が減少(退職金規程を改定し給付水準を引き下げ)

1.掛金額と退職給付費用の関係を原因としている場合
勤務期間の短い従業員が多数を占めているような場合には、掛金額よりも退職給付費用が小さくなり積立超過が生ずる。
3%の利回りにより運用して3年後に300万円の給付を行うとした場合の年金財政計算に基づく各期の掛金額は、94.2万円となる。
初年度の運用結果 103万円(94.2万円X1.03X1.03X1.03)
2年目の運用結果  100万円(94.2万円X1.03X1.03)
3年目の運用結果   97万円(94.2万円X1.03)
計・・・300万円

他方、退職給付費用についてみると、期間定額基準を前提とし、期待運用収益率も3%と考えた場合
初年度 勤務費用        94.2万円=[100÷(1.03X1.03)]
期待運用収益相当額    2.8万円=[94.2X3%)]
退職給付費用        91.4万円
数理計算上の差異が生じないと仮定すると
期末の退職給付債務   94.2万円
期末の年金資産      97.0万円
積立超過         2.8万円
このような差額は、金額算定の考え方によるもので最終的には解消されるといえるので、経過的に前払年金費用として貸借対照表の資産の部に計上する(利益としない)。

上記の仕訳

(借)退職給付費用      91.4 (貸)退職給付引当金     91.4
(借)退職給付引当金     91.4 (貸)現金預金         94.2

(貸)前払年金費用       2.8

2.遅延処理項目の発生を原因としている場合

平成17年4月1日前に開始する事業年度の場合
・外部積立年金資産は、会社にとって処分可能なものではないため、企業の資産として認識すべきではない
・年金資産の払戻は制限されるため、企業に変換されない限り、利益として認識すべきではない、との理由から、遅延処理項目の費用(減額)処理を通じて利益(退職給付費用のマイナス)または資産(前払年金費用)として認識することは認められていなかった。

そこで、未認識年金資産として帳簿外にプールして凍結され、超過額分の返還等がない限り、利益または資産として取り扱わないものとされていた。その後、積立超過額が減少して未認識年金資産の金額を下回った場合には、凍結させておく根拠は失われるため、積立超過の解消額に相当する金額を減額処理する。

積立超過額が減少して未認識年金資産の金額を下回る原因としては
・数理計算上の差異または過去勤務債務といった遅延処理項目の発生を原因とする場合
・退職給付水準の引上げにより過去勤務債務が増加した場合
・年金資産の実際の運用収益が期待を下回ったことにより年金資産が減少した場合
・退職給付債務の期末の実際額が予想額を上回った場合
遅延処理項目の金額を積立超過の解消分だけ小さくすることで、積立超過の影響が、その後、遅延処理項目の費用処理年数の期間にわたって財務諸表に少しずつ反映されていく。

たとえば、年金資産の運用実績が期待を下回ったために、積立超過額(200)を上回る金額の数理計算上の差異(300)が生じて、積立超過額が全額解消される場合には、以下の仕訳(計算上の仕訳)となる。

(借)未認識年金資産     200    (貸)年金資産     300
数理計算上の差異   100・・遅延処理項目を減額

一部のみが解消される場合(150)は、数理計算上の差異は生じなかったものとする。
(借)未認識年金資産     150    (貸)年金資産     150

退職給付水準の引上げにより過去勤務債務が増加した場合も上記と同様の仕訳となる。

なお、積立超過額を未認識年金資産として帳簿外にプールして凍結するという特殊な取扱いは、社内準備型の退職給付制度の場合には必要ではない。

平成17年4月1日以後に開始する事業年度の場合
遅延処理項目の発生を原因とする積立超過についても、未認識年金資産としてではなく、あくまで遅延処理項目として将来の費用(減額)処理を通じて認識する。

既に生じていた未認識年金資産については、過去勤務債務または数理計算上の差異に区分し、新たな取扱いを適用する事業年度の期首に発生したものとみなして費用(減額)処理する。

この場合に期首日に発生したとみなされた数理計算上の差異に限っては、たとえ会社が数理計算上の差異について発生の翌期から費用処理することにしていたとしても、当該事業年度から費用(減額)処理の対象に含める。

剰余金の返還

・剰余金が事業主に返還された場合
退職給付表の計算上の仕訳では、
(借)現金預金    150   (貸)年金資産  150・・現金で返還
(借)有価証券    150   (貸)信託財産  150・・有価証券で返還
剰余金の返還により、積立超過額が解消(積立不足が増加)することとなるため、実際の帳簿上では退職給付引当金を増額する仕訳をする。

(借)現金預金(または有価証券) 150    (貸)退職給付引当金  150

・返還財産に対応する数理計算上の差異の一括費用処理

数理計算上の差異を遅延認識する根拠は、その発生源泉を問わず、長期的にはプラス・マイナス・ゼロとなる性質を持っていることにあった。
年金資産(信託財産)を発生源泉とする数理計算上の差異のうち、返還財産に対応する金額部分については、年金資産(信託財産)自体が返還されてしまうので、その後の運用の巧拙によって解消されることはなく、もはや遅延認識する根拠を失うと考えられる。
そこで、重要性が乏しい場合を除き、返還財産に対応する数理計算上の差異は、解消時点で一括費用処理する。

退職給付表上の仕訳
(借)数理計算上の差異の費用処理額 xxxxx  (貸)数理計算上の差異 xxxxx
実際の帳簿上の仕訳・・現金預金(または有価証券)は動かない。
(借)退職給付費用    xxxxx    (貸)退職給付引当金    xxxxx

剰余金の返還に関する処理方法の改正
従来の仕訳では、退職給付費用の減額効果(利益計上)をもつものとしていた。
(借)現金預金         150    (貸)退職給付費用     150

しかし、業績不振の特効薬のような利用を防止するため、剰余金の返還に関しても、あくまで一度数理計算上の差異に振り替えるものとし、費用の減額効果は、数理計算上の差異の費用処理年数にわたって平準化するように取り扱うものとされた。

前記のように、積立帳過部分の返還を受けたのに積立不足が増加するような「退職給付引当金」(退職給付引当金は積立不足を意味する)の増加としての仕訳は、数理計算上の差異の遅延認識と同じ効果をもたせるということである。

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